故きを温ねて新しきを知る~「茶箱」という芸術~
2015年02月24日 20:51
石松園の高野です。
昨日、明治時代創業の「製函所(せいかんじょ)」にお伺いさせていただきました。
お客様から、新品の「茶箱(ちゃばこ)」が欲しいとのご依頼を頂いたからです。
現代、茶箱をみることはなかなかないと思います。私自身もこのしごとに就くまではその存在を知りませんでした。
「茶箱」とは?
文字どおり、もともと「お茶を新鮮な状態で保存・運搬するために使用された木の箱」のことです。
防湿・防虫のために、内側にトタン(亜鉛メッキ銅板)が貼られています。
この「茶箱」という道具は、まさに日本の茶業と密接な関わりを持ちながら、現在に至る「技術」であると思います。
その保存能力は優れており、またその機能はずっと保ち続けられています。
石松園の工場にはたくさんの「茶箱」があります。
そしてそのほとんどは初代の濱吉じいさんが用意した茶箱ですが、
三代目である私の代においても、全く変わることなく使用させて頂いております。
この「茶箱」は、茶とともに全盛期を迎える昭和30年前後には、茶をどこに送るにもこの「茶箱」が使われていた程で、
どの製函所も基本的に茶箱を専門に作り、ほとんどを近隣地域の茶屋などへ出荷していたそうです。
箱の材料として使うスギも近隣の製材所などから仕入れていたため、生産から販売まですべてその地域内で済んでいたそうです。
製函所によって、多い時には1軒に20キログラム用の箱を数百個出荷もすることもあり、毎日夜まで仕事をすることも多く、
人手も多く必要だったそうです。このような全盛期ともいうべき時代から、茶箱はやがて徐々に衰退の道をたどっていきます。
そのきっかけは、ダンボールの普及であるそうです。
ダンボールは19世紀のイギリスで発明され、その後アメリカで電球を包む目的で使用されるようになり、
日本では明治42(1909)年頃から普及し始めたといわれているそうです。
そして1960年代、産業がさかんになり段ボール生産量も急上昇したそうです。
重くて使用後の処理にも困る「茶箱」よりも、より軽いダンボールの方が輸送面で手間が少なく済み、
また以前は販売先でやっていた袋に入れて真空にするという工程も生産地ですべてを済ませてしまうようになったそうです。
それはなるべく入荷から販売までの手間を減らすためであるそうで、ひとつひとつが職人の手作りであるために
どうしても高価になってしまう「茶箱」を、販売先が進んで使うメリットがあまりなくなってきたという理由もあったそうです。
現在では、アルミ製の袋に茶葉を入れたものを真空パックにして、より良い品質を保つために、
さらにそれに窒素を入れたものが茶の輸送手段として主流となり、「茶箱」が使われなくなってしまったのです。
その結果、現在「茶箱」を製造している製函所は激減してしまったのだそうです。
そんな中、ここ最近「インテリア茶箱」というカタチで「茶箱」に息が吹き込まれつつあります。
お伺いした製函所でも、その注文のほとんどは「インテリア茶箱」用であり、
私のようなお茶屋からの注文はほとんどないとおっしゃっていました。
この「インテリア茶箱」は、「茶箱」の特性に目を付けた外国人が、西洋の布貼りチェストになぞらえて、
日本の伝統工芸である着物の帯や藍染めなどの素材を使用して作り出したものであるそうです。
また、最近では衣類の保管に最適との声もあり、先日は独特の髪型なお兄さんが「ご自分のイチバンの財産である革ジャン」
を保管するために「茶箱」が欲しいとご来店くださいました。
そんな流れを踏まえた素晴らしい道具である「茶箱」。
改めて、この美しく素晴らしい「茶箱」とともに歩みたいと思った昨日でした。