石松園の新茶の仕入れ「遠州森町1」
2013年05月27日 10:22
石松園の高野です。
石松園では昨日、今年度一番茶の仕入れを終了致しました。
茶は生命力の強い強い植物で、八十八夜(立春から数えて88日、今年は5月2日)前後に収穫する一番茶に始まり、二番茶(一番茶摘採後45日~50日後、静岡県では6月~7月頃)、三番茶(7月~8月頃)、四番茶と摘採されます。
一番茶とは、その年最初に発芽した芽でつくるお茶のことです。
茶業界ではその年に生産したお茶のことを「新茶」それ以前のお茶のことを「古茶」と呼びますが、この一番茶はまさに新茶ならではの香りを存分に持っています。
前回のコラムでも少し触れましたが、石松園では一番茶を静岡県内の産地ごとに仕入れ生産しています。
もともとは石松園は「遠州森町の茶」のみを販売するお茶屋でした。
石松園初代の濱吉さんが生を受けた遠州森町のお茶を近所の人にふるまったところ「是非欲しい。」と皆に言われてお茶屋を始めることとなりました。
その時濱吉さんは森町のお茶を扱うからには「森の石松」の名を使いたいと現在も森町に在る「大洞院」という石松の墓があるお寺に話に行き「石松園」という屋号でスタートさせました。
この初代から扱う石松園にしかないお茶は「森の改良 手もみ茶」と言います。
80年変わらず同じ畑で育った茶葉を同じ製法でつくっています。
一般的な「煎茶」とは違う「玉緑茶」というお茶です。
煎茶との違いはその茶葉の形状です。煎茶は針状に伸ばして整形するのですが、この「森の改良 手もみ茶」は整形せずくりくりと丸かっています。
これは山の香りと濃厚な味わいを出すために編み出された製法です。
昔はそういうつくり方をする農家が他にもあったそうなのですが、今では石松園がお願いしている「木根」という土地の人しかやらないそうです。
伊豆地方に「ぐり茶」というお茶が在りますが、「森の改良 手もみ茶」とは全く違うお茶でした。
この石松園の扱う「森の改良 手もみ茶」は世界にただひとつしかないお茶なのです。
そしてもうひとつこのお茶には特徴があります。それはこのお茶が育つ「木根」という土地です。
遠州森町の中心市街地から1時間ほど車を走らせた山頂にあります。
そこは人の住まないイノシシやシカの住む土地で、川霧の立ち込める秘境です。
車1台がやっと通れる山道が山頂まで通っています。
雨の降った後は山から落ちてきた木が道をふさいでいたり、大きな石が道をふさいでいたりします。
そこを登ると、標高500M以上の寒暖の差の激しい北側の斜面に茶畑が広がります。
これらは一般的にも最高の茶が育つ環境と言われています。
ひとつひとつに理由があります。例えば「なぜ北側の斜面がいいのか?」ということを昨日たまたま農家の方と話し合いました。
ひとつには朝日が昇った時の直射日光の当たるかげんです。特に新茶の芽が出る4月は、朝晩はまだ冷え込んで日中はかなり気温が上がります。
この冷え込みで、寒さで縮こまった新芽の細胞がこの朝日で解凍されるわけですが、南側だと朝日がガンガンにあたる中で一気に解凍されることとなります。
それに比べて北側の斜面ではゆっくりじんわりと解凍されていきます。
このことが茶の生育に好条件なのです。もうひとつには日照時間の違いで茶葉の色にも影響があり、北側の方が色目がいいということでした。
そして何よりも驚いたことは、初代の濱吉じいさんは当時はまだ車が走れる道もなかったこの山頂の茶畑を歩いて探し当て、この土地のお茶を扱いたいと来たんだよと農家のおじいさんから聞いたことでした。
次回はそこでの茶農家の方々とのやりとりについて描きたいと思います。